荒馬のつれづれ日記

好きなことを、好きな時に徒然と綴る日記です。

『百貨の魔法』を読んで母を思い出す

読書の際はいつも先が気になり、どんどん読み進めているのですが、

それとは逆に

「読み終わりたくない」「まだこの世界にいたい」と思える本と

出会うことができました。

それがこちら 

温かくて、素敵なストーリーの一冊です。

百貨店が舞台になっていて、キラキラした雰囲気も感じられます。

そこに勤める従業員さんのプロとしての仕事ぶり

足を運ぶお客さんにとっても百貨店の存在意義

その両者により生み出される奇跡のようなストーリー

 

百貨店に行ったことがあり、あのキラキラな雰囲気が分かる人なら、

より一層楽しめることと思います。

 

ストーリーもさることながら、

荒馬が読み終えたくないと感じた理由は他にあります。

それは、

忘れていた母との思い出が次から次へと溢れ出てきたから。

 

荒馬の母も百貨店勤務でした。

当時、私の住む土地での百貨店はいくつかありました。

その中でも少しだけ格が高い百貨店でした。

荒馬はその百貨店の向かいに習い事で通っていました。

週に1回

放課後や休日に1人で30分ほどバスに揺られ通っていました。

習い事が終わると、

母の居る百貨店に行きます。

母の勤務終わりまでそこで待ち、一緒に帰るためです。

 

百貨店の婦人服売り場にいる母

制服着用の時もあれば、私服販売をしていることもありました。

そこに小学生の荒馬は「ただいまー」と向かいます。

他の従業員の方々も「おかえりー」と出迎えてくれます。

母を待つ間、

荒馬はいつも1階から最上階まで、ゆっくりと見て回っていました。

時にはレストランや喫茶店で飲食もしながら…

どのフロアの人にも

「おかえりー」「今日は上手く弾けた?」「コンクールが近いんだってね」

「学校は楽しい?」などと声をかけてもらいました。

 

従業員ではないけれど、お客さんともちょっと違うので、

他のお客さんの邪魔になったり、不快な思いをさせないように

気をつけながら百貨店内を散歩していました。

小学生1人で歩き回っているのを快く思わない人もいるので…

 

閉店時間が過ぎたり、母の勤務が終わると、

従業員用の通路を通り、通用口から出て行きます。

その瞬間、

百貨店の従業員から母に戻ります。

その変化が不思議で、驚きで、嬉しくて…

大人って凄い! 何か魔法がとける瞬間をみるようでした。

その百貨店も経営難で閉店

その後、母は他の百貨店に勤務することになりました。

そちらの百貨店は割とフランクに行ける場所でした。

中学生になっていた荒馬は、

行きも帰りも1人で習い事へ通い、

そのうち部活や勉強との両立が難しくなり、やめてしまいました。

高校生になり、今度は荒馬も

母の2つ目の勤務地である百貨店内のレストランでアルバイトを始めました。

 

百貨店と母と荒馬

10年ほどの思い出があります。

働く母を見るのが大好きでした。

いつもキラキラしていて、お客さんに見せる笑顔が綺麗で。

自慢の母でした。

弱音や愚痴を言うことも無く、いつも凜としていました。

荒馬は自分のことで精一杯で、

母の助けになってあげられていませんでした。

それでも母はいつも周りの人達に

「私の自慢の娘なのよ」と言ってくれていました。

叱る時はめちゃくちゃ怖くて、理不尽な言い分は一切無く、

長々とは叱らず、終わると

「はい!終わり。さて、いつまでも引きずらず切り替えるのが大切よ」と

あの笑顔が戻ります。

 

もっと一緒にいたかったし、もっと話もしたかった。

孫の顔を見せてあげたかったし、色々な場所に連れて行ってあげたかった。

今の私を見て、母はなんて言うのかな。

 

そんなことを次々と思い出して、

恋しくて嬉しくて、なかなか読み終えることができなかった一冊でした。

これは、再読必至